皆さんは「白血病」と聞いて、どんなイメージをお持ちでしょうか?
かつては「治らない病気」として恐れられていた時代もありましたが、医療は日々進歩しています。
なかでも「慢性骨髄性白血病(CML)」というタイプの白血病は、画期的なお薬の登場によって、今では多くの患者さんが普通の生活を送りながら治療を続けられるようになりました。
ここでは、CMLについての基礎知識から、治療法、将来の展望まで、患者さんとご家族にとって役立つ情報を分かりやすくご紹介します。
CMLってどんな病気?
慢性骨髄性白血病(CML)は、血液をつくる骨髄で異常な白血球が増えてしまう病気です。多くは50~60代に多く発症し、男性にやや多くみられます。
この病気の原因は、染色体の異常(フィラデルフィア染色体)によってできる「BCR-ABL1遺伝子」という特別な遺伝子です。これが、白血球を異常に増やす“スイッチ”のような働きをしてしまうのです。
主な症状
・初期には無症状のことも多く、健康診断で白血球数の異常として発見されることが多いです
・進行すると、体のだるさ、体重減少、お腹の張り(脾臓が腫れるため)などの症状が出ることがあります
診断のための主な検査
血液検査
- 白血球の種類や数の変化を詳しく見ます。
- 貧血や血小板の異常など、他の血液細胞の状態もチェックします。
骨髄検査
- 腰の骨などから骨髄液をとって、血液をつくる「工場」の状態を調べます。
- 特に、異常な染色体の有無を調べるために重要な検査です。
- 当院では骨髄検査を実施していないため、検査が必要な場合は連携医療機関をご紹介させていただきます。
染色体検査・遺伝子検査
CMLの最大の特徴は、「フィラデルフィア染色体(Ph染色体)」という異常な染色体ができることです。
この染色体によって、BCR-ABL1という特殊な遺伝子が生まれ、白血球を異常に増やす命令を出してしまいます。
この染色体異常、遺伝子異常を検索するために、以下のような検査が行われます。
Gバンド法(染色体検査)
細胞の染色体を特殊な染色で可視化して、「Ph染色体」があるかどうかを直接調べます。
もっとも基本的で信頼性の高い検査です。
FISH法(フィッシュ法)
蛍光を使って、BCR-ABL1遺伝子の異常を視覚的にとらえる方法です。
Gバンド法に比べて、結果が早く出やすく、骨髄が取れないときには血液でも検査ができるという利点があります。
ただし、検出できる情報がGバンド法より少ないこともあり、両方の検査を組み合わせて行います。
PCR検査(リアルタイムPCR)
BCR-ABL1遺伝子があるかどうか、またその量を正確に測定できます。
この検査は、治療の効果を確認するためにも重要で、CMLの経過を追いかける中心的な検査となっています。
治療法
CMLの治療はここ20年で大きく進歩しました。特に「チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)」と呼ばれるお薬が登場してからは、CMLの治療成績は飛躍的に向上しました。
治療の目標
まず最も大切なのは、CMLが「進行期」や「急性期」に進んでしまうのを防ぐことです。
これは「慢性期」と呼ばれる比較的安定した状態をできるだけ長く保つ、ということでもあります。
このために使用するのが、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)と呼ばれる飲み薬です。
この薬によって、病気の原因であるBCR-ABL1という異常な遺伝子の働きをピンポイントで抑え込むことができます。
主なお薬(TKI)の種類
現在、日本では以下のような薬が使われています
- イマチニブ(グリベック):最初に登場したTKI。長期の安全性に実績あり
- ニロチニブ(タシグナ)・ダサチニブ(スプリセル)・ボスチニブ(ボシュリフ):第2世代TKIと呼ばれ、効果がより強く、治療反応も早いことが特徴。初発患者さんでも使用可能。
- ポナチニブ(アイクルシグ)・アシミニブ(セムブリックス):他の薬が効かなくなったときに使われる第3世代や新しいタイプのお薬です
これらの薬を毎日服用することで、多くの患者さんが病気を安定させ、長期的に健康な状態を保つことができます。
治療効果の測定
治療の効果は、主に血液や骨髄の検査、さらに遺伝子レベルでの変化を見る検査(PCR検査)で評価します。
特に「BCR-ABL1遺伝子」の量をモニターすることで、病気がうまく抑えられているかどうかが分かります。
治療が順調に進んでいるかを判断するために、3カ月・6カ月・12カ月といったタイミングで検査を行い、必要に応じて治療方針を調整していきます。


日本血液学会 造血器腫瘍ガイドライン 2024年版より
将来的に「薬をやめられる」可能性も
近年、治療がとてもよく効いた患者さんの中には、一定の条件を満たせば薬を中止できるケースも出てきました。これを無治療寛解(TFR:Treatment Free Remission)といいます。
ただし、すべての方が対象になるわけではありません。一定期間にわたって遺伝子のレベルで病気が検出されない状態(DMR)を維持している必要があります。また、中止後もこまめな検査によるフォローが不可欠です。
日常生活とCML治療
CMLの治療は、基本的に通院しながら薬を飲むことで行います。副作用には個人差がありますが、以下のような点に注意が必要です
- 定期的な血液検査を受けること
- 医師の指示通りに薬を飲むこと(飲み忘れに注意)
- 副作用がある場合は、我慢せず相談すること
とくに、薬の効果を最大限に引き出すためには「毎日欠かさず飲むこと」がとても大切です。途中でやめてしまうと、病気が再び悪化する恐れがあります。
6. 妊娠を希望される方へ
CML治療薬の多くは、妊娠中には使用できないため、妊娠を希望される場合は必ず事前に主治医と相談してください。場合によっては、治療薬を変更したり、一時的に中止したりする必要があります。
まとめ
CMLは「長く付き合っていく病気」ですが、治療の選択肢が増え、生活の質を保ちながら治療することが十分可能な時代です。治療に前向きに取り組み、ご自身の体調を大切にしながら、日常生活を送っていただくため、いろはなクリニックでは内服管理、副作用対策、治療方針の相談など、CML患者さんの治療を総合的にサポートしています。
不安なことがあれば、遠慮なくご相談ください。