「最近、だるさや息切れが続く」「白目や肌が少し黄色い気がする」「尿が濃い茶色になることがある」
こうした変化は、溶血性貧血のサインかもしれません。溶血性貧血は、赤血球が通常より早く壊れてしまう(=溶血する)ことで起こる貧血の総称です。原因はさまざまですが、適切に診断し治療をすることで、多くはコントロール可能な疾患です。
このページでは、溶血性貧血を理解できるように、次の内容をわかりやすくまとめました。
- 溶血性貧血とは?
- よくある症状と受診の目安
- 診断の流れ
- 治療の考え方
- 日常生活のポイント
- いろはなクリニックでできること
溶血性貧血とは?
「溶血」とは、血液の中の赤血球が通常よりも早く壊れてしまうことを指します。
赤血球は全身に酸素を運ぶ大切な細胞ですが、寿命(およそ120日)よりも早く壊れると、体が必要な赤血球を十分に補えなくなり、「貧血」の状態になります。これを溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)といいます。
赤血球が壊れる場所の違い
- 血管内溶血:血管の中で赤血球が壊れる(尿が赤褐色になることも)
- 血管外溶血:脾臓(ひぞう)などで赤血球が処理されて壊れる(黄疸や脾腫が出やすい)
どんな症状がでますか?
- 貧血による症状:疲れやすい、息切れ、動悸、めまい、頭痛、顔色が悪い
- 溶血のサイン:黄疸(間接ビリルビン上昇)、濃い茶色〜赤褐色の尿(血管内溶血のとき)、左上腹部の違和感(脾臓腫大)
- 経過:ゆっくり進む場合は症状が目立ちにくいこともあります。急に悪化するタイプでは、倦怠感や息切れ、尿色変化が短時間で出ることがあります。
こんなときは受診を急ぎましょう
・尿が急に濃い茶/赤っぽくなった ・息が苦しい ・強いだるさや動悸
・黄疸がはっきりしてきた ・発熱や寒気を伴って急に悪化した
主な原因(代表的な疾患)
溶血性貧血には多くの原因があります。以下に代表的な疾患を説明します。
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)
自分の免疫が誤って赤血球を「敵」とみなし、壊してしまう病気です。
- 症状:だるさ、息切れ、黄疸、脾臓の腫れ
- 検査:血液検査・クームス試験(赤血球に抗体がついていないか調べる)
- 治療:ステロイド薬が基本。効かない場合は免疫抑制剤、脾臓の手術、特殊な抗体製剤などを検討します。
- 特徴:後天的に起こることが多く、自己免疫疾患(SLEなど)やリンパ腫などに続いて発症することもあります。
遺伝性球状赤血球症(HS)
生まれつき赤血球の膜に弱さがあり、球状になった赤血球が脾臓で壊されやすくなる病気です。
- 症状:貧血、黄疸、脾臓の腫れ、胆石を伴うこともあります
- 検査:血液検査(MCHC高値やRDW高値)、浸透圧脆弱性試験、EMA結合能検査など
- 治療:重症の場合は脾臓を取る手術(摘脾)で大きく改善します。ただし感染症のリスクが高まるため、年齢・重症度に応じて慎重に判断します。
- 特徴:家族に同じ病気を持つ方がいることがあります。
寒冷凝集素症(CAD)
寒さによって赤血球が固まりやすくなり、壊れてしまう病気です。
- 症状:寒いと手足の色が変わる(レイノー現象)、赤褐色尿、黄疸、だるさ
- 検査:寒冷凝集素価、クームス試験(冷式)、血液検査
- 治療:基本は体を冷やさないこと。重症の場合は補体を抑える薬(新しい治療薬)を使うこともあります。
- 特徴:感染症やリンパ系の病気に伴って発症することもあります。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)
血液の幹細胞に後天的な異常が起こり、赤血球が壊れやすくなる病気です。
- 特徴:血栓(血のかたまり)による合併症を起こしやすいため、早期の診断と専門医での治療が重要です。
- 症状:夜間や早朝の赤褐色尿(ヘモグロビン尿)、だるさ、息切れ、黄疸、腹痛
- 検査:フローサイトメトリーという特殊検査でPNH細胞を確認します
- 治療:新しい薬(補体を抑える薬)によって症状をコントロールできるようになってきています。輸血や支持療法が必要なこともあります。
G6PD欠乏症
赤血球を守る酵素(G6PD)が生まれつき少ないため、特定の薬や食べ物、感染をきっかけに赤血球が壊れてしまいます。
- 症状:急な貧血、だるさ、黄疸、赤褐色尿
- 検査:赤血球のG6PD活性を調べる血液検査
- 治療:きっかけ(薬・ソラマメ・感染など)を避けることが最も大切。必要に応じて輸血や支持療法を行います。
- 特徴:遺伝性で、特に男性に多い病気です。
どうやって診断するの?
- 血液検査:
- 溶血所見…間接ビリルビン上昇、LDH上昇、ハプトグロビン低下、網状赤血球上昇
- 一般血算(CBC):貧血(ヘモグロビン低下)
- 特殊採血:クームス試験、寒冷凝集素、抗核抗体、フローサイトメトリー(CD55,59)など
- 末梢血塗抹:赤血球の形状を確認
- 骨髄穿刺:他の血液疾患鑑別のため実施します
- 画像検査:状況により腹部エコー(脾臓の大きさ)や、他疾患の鑑別のためのCTを追加します。
治療の基本方針
- 原因に合わせた治療を行います(免疫を抑える薬、摘脾、補体阻害薬、誘因回避など)。
- 赤血球輸血:溶血性貧血では輸血を実施することで溶血を誘発する可能性があるため、安易には実施しません。ただし重症時は命を守るために必要となることもあります。
- 生活の工夫:十分な休息、感染予防、寒冷曝露の回避(CAD)、誘因薬の回避(G6PD)など。
- 手術(脾臓摘出):場合によって脾臓を摘出する手術(脾摘)を行います。
治療は疾患により異なるため、まずはしっかりとした診断を行うことが大切です。疾患によっては治療により良好なコントロールが期待できますが継続的な治療が大切です。
いろはなクリニックでできること
血液内科専門医として、次のような初期評価と継続サポートを行います。
- 問診と診察(発症時期・誘因・家族歴・感染歴など)
- 基本検査:CBC、溶血所見(ビリルビン・LDH・ハプトグロビン・網赤血球)、尿検査 など
- 追加検査の手配:溶血性貧血に対して専門的な検査が必要な場合は連携医療機関へ迅速に紹介します。
- 維持療法期の治療:初期治療導入後、症状が落ち着いている方の外来フォローを行います。
- 生活指導:寒冷曝露・誘因薬回避、感染対策、ワクチン接種(摘脾前後)など
- 制度のご案内:病型・重症度によっては医療費助成(難病制度等)の対象になり得ます。該当可否を一緒に確認します。
まとめ
溶血性貧血は「赤血球が壊れやすくなる」ことで起こる貧血です。
原因は一つではありませんが、原因を見極め、治療が必要な場合は迅速に対応することが大切です。
黄疸、濃い尿、だるさ・息切れなどが気になるときは、お早めにご相談ください。