( 診療案内 )

腎性貧血

慢性腎臓病に伴っておこる貧血

腎性貧血は、慢性腎臓病に伴って起こる貧血です。腎臓の働きが落ちてくると、赤血球を作るエリスロポエチンというホルモンが不足し、赤血球がうまく作れなくなります。
命に直結することは稀ですが、息切れ・だるさ・集中力低下など、毎日の生活の質(QOL)を大きく下げます。早めに見つけて適切に治療することで、体力や活動量の維持・回復が期待できます。

このページでは、

  • 腎性貧血のしくみと症状
  • 受診の目安・検査の流れ
  • 治療(目標のHb値・薬の種類・鉄の補充)
  • いろはなクリニックでできること
    を、解説していきます。

腎性貧血のしくみ

  • エリスロポエチンの不足
    エリスロポエチンは腎臓で産生されるホルモンで、赤血球を産生するために必要です。慢性腎臓病によって腎臓の機能が低下すると、エリスロポエチンの産生が減り、結果貧血が発生します。
  • 慢性炎症と鉄利用障害
    慢性的な体の炎症で“ヘプシジン”という物質が増えると、鉄がうまく利用できない(機能的鉄欠乏)状態になることも、腎性貧血に関わっていると言われています。
  • 赤血球の寿命が短くなる
    慢性腎臓病に伴う尿毒症や酸化ストレスによって、赤血球の寿命が短縮すると言われています。

多くは慢性腎臓病ステージ3(eGFR<60mL/分/1.73m2以降で発症し、腎機能が低下するにつれて増加します。

症状

  • だるい・疲れやすい・息切れ(坂道・階段で強く感じる)
  • 動悸、めまい、集中力の低下、眠気
  • 顔色が青白い、眼瞼(まぶたの裏)の蒼白
  • 貧血の進行によりむくみ・心不全症状が悪化することもあります

※ゆっくり進行するため、自覚が乏しいことがあります。「以前より体力が落ちた」の背景に、腎性貧血が隠れていることもあるため、注意が必要です。

受診の目安

  • 慢性腎臓病と言われている/腎機能が低下していると指摘された
  • 上のような貧血症状が続く
  • 健診/検診でヘモグロビン(Hb)低値を指摘された

次の症状が急に強くなったら早めの受診をお勧めします
息切れの悪化、動悸・胸痛、強い立ちくらみ、など

診断の流れ

  1. 血液検査
    Hb(ヘモグロビン)、赤血球の指標(MCVなど)、鉄の指標(フェリチン・鉄結合能・トランスフェリン飽和度)、腎機能(Cr・eGFR)、血中エリスロポエチン濃度
  2. 尿検査
    尿中のたんぱく質や潜血を確認します
  3. 鑑別診断
    消化管出血、鉄・ビタミンB12・葉酸不足など、他の貧血を除外します

腎性貧血は多くが正球性・正色素性というタイプです。鉄欠乏の合併もよくあるため、鉄の評価も大切です。

治療の考え方

目標(Hb:ヘモグロビン)

  • 多くの方でHb 10〜12 g/dL(概ね10以上・13未満を目安)を保つことが推奨されます。
    • 透析中の方:10〜12 g/dL
    • 透析前(保存期)や腹膜透析の方:概ね10 g/dL以上をキープ

Hbを高くしすぎる(13以上)と、脳卒中・心血管イベントのリスクが上がる可能性があるため、上げすぎないことも大切です。

主な治療

  • 鉄の補充
    • 鉄不足がある・鉄の利用が不十分な場合に実施。
    • フェリチン低値、トランスフェリン飽和度低値の場合、鉄補充を検討します。
    • フェリチンが高すぎる(約300 ng/mL超)状態での追加は原則避けます。
  • 赤血球を作る治療(造血刺激)
    • ESA:エリスロポエチン製剤(注射、作用時間に短・長・超長があり、外来通院でも使いやすい製剤があります)
    • HIF-PH阻害薬(内服):体の“低酸素反応”を利用してエリスロポエチン産生と鉄利用を高めます。

治療の進め方

鉄不足がある場合は補充
ESAやHIF-PH阻害薬を少量から開始
Hbの上がり方・血圧・副作用を見ながら調整

注意が必要なケース

  • がん治療中、血栓の既往、コントロール不良の高血圧
    薬剤選択・目標設定に、より慎重な判断が必要です。
  • ESAが効きにくい時
    感染・出血・栄養不足・鉄欠乏など背景要因の見直しが重要です。必要に応じてHIF-PH阻害薬への切替えを検討します。

よくある質問(FAQ)

Q. 鉄サプリを飲めば治りますか?
A. 腎性貧血はEPO不足が主因鉄が不足している場合は鉄補充が有効ですが、鉄だけでは不十分なことも多く、医師の管理下で造血治療とセットで調整します。

Q. Hbは高いほどよい?
A. いいえ。上げすぎ(13以上)は脳卒中等のリスクが増える可能性があり、10〜12程度を目安に“ちょうどよく”保つのが基本です。

Q. どれくらいで楽になりますか?
A. 個人差はありますが、数週〜数か月で体力や息切れが改善してくる方が多いです。焦らず、着実に上げることが大切です。

Q. 透析でないと治療はできませんか?
A. 透析前(保存期)でも治療可能です。通院間隔を空けられる長時間作用型の注射内服薬の選択肢もあります。

いろはなクリニックでできること

  • 問診と診察(疲れ・息切れの程度、生活背景、服薬状況を確認)
  • 血液検査Hb・鉄指標・腎機能を評価
  • 治療計画の作成:鉄補充の要否、ESA/HIF-PH阻害薬の選択と用量調整
  • 副作用・合併症のチェック:血圧管理、血栓リスク評価 など
  • 腎臓内科・透析施設と連携し、最適な治療環境を整えます。

まとめ

腎性貧血は、慢性腎臓病に伴うエリスロポエチン不足と鉄の使いづらさが主な原因です。
目標はHb 10〜12 g/dL(概ね10以上・13未満)を無理なく保ち、息切れやだるさを減らして活動量を取り戻すこと。
「前より疲れやすい」「健診でHbが低い」といったサインは早めの受診
をおすすめします。
いろはなクリニックでは患者さんの希望に寄り添いながら、検査・治療・生活サポートまで伴走します。気軽にご相談ください。