概要
黄耆(おうぎ/学名:Astragalus membranaceus)は、東洋医学で「気(エネルギー)を補いながら、体の外側(=肌・粘膜・汗腺)からの刺激を防ぐ」作用を有する代表的な補気薬です。
体の内側の力を整えるだけでなく、風邪・寒さ・疲労・ストレスなど“外からの負荷”にさらされやすい時期にも、守る力を高めるために用いられます。
例えば、
- 倦怠感が続く、疲れやすく休みがち
- 汗をかきやすい・汗が止まりにくい
- 風邪をひきやすく、回復に時間がかかる
…といった「気が不足しており、かつ外からの刺激に弱くなっている」症状があるときに適しています。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 生薬名 | 黄耆(おうぎ) |
| 学名 | Astragalus membranaceus |
| 使用部位 | 根 |
| 性味 | 微温・甘 |
| 帰経 | 脾・肺 |
| 分類 | 補気薬(ほきやく) |
主な働き
気を補い、疲労・気力低下をサポート
黄耆は、体の基礎的な気(エネルギー)を補い、脾・肺の働きを助けることで、慢性的な疲労・気力低下・倦怠感などの改善を目指します。
他の補気薬(例:人参など)と併用されることで、持続的な回復を図ることもあります。
外からの刺激に負けない体をつくる(固表・止汗作用)
黄耆の特徴的な作用として、肌・粘膜・汗腺といった“体表”を守る機能を整える「固表(こひょう)・止汗(しかん)」の働きがあります。
つまり、表面からの“気の漏れ”“汗の過剰”“外からの侵入”を防ぐことで、風邪をひきやすい・汗をかきやすい・冷えやすいといった体質傾向をサポートします。
むくみ・水分代謝の乱れを整える(利水・消腫作用)
黄耆には、体内の水分のめぐりを助け、むくみや水滞(すいたい)傾向に働きかける作用があります。特に「気の力が弱いために水を動かせない」タイプのむくみに適することがあります。他の利水薬(例:茯苓・白朮)と組み合わせることで、水滞+気虚という複合的な不調にも対応できます。
傷・炎症・回復力を助ける(扶正・托毒生肌作用)
黄耆は、気血(エネルギーと血)を補いながら、体の“治ろうとする力”を支援します。皮膚の乾燥・湿疹・化膿・潰瘍・慢性炎症など、回復が遅れがちな症状にも用いられます。これは「補気→固表→生肌(せいき)=肌を生き返らせる」という漢方的な流れに沿っています。
東洋医学的な視点
東洋医学において、黄耆は「衛気(えき)」を補う生薬と位置づけられています。衛気とは、体の外側(肌・汗腺・粘膜)を守るエネルギーであり、現代的には「免疫力・自律神経・皮膚バリア機能」に近しい概念と考えられます。
以下のような体質・傾向に特に適しています:
- 気虚(疲れやすい・声が小さい・息切れしやすい)
- 衛気虚(汗をかきやすい・風邪をひきやすい・寒がり)
- 脾虚(食欲不振・下痢・むくみ)
黄耆は、これら「内側のエネルギー」と「外側の防御力」の両方を整える役割を持ち、例えば補気の代表格である人参と組み合わせることで、無理せず続けられるバランスを支えます。
含まれる代表的な漢方処方
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
- 加味帰脾湯(かみきひとう)
- 清暑益気湯(せいしょえっきとう)
(実際の処方は、体質・症状・併用薬を考慮した上で、医師が判断します)
注意点
- 発熱や明らかな炎症・熱証(体がほてる・のぼせ・赤ら顔など)が強い時期は、まず「熱を取る(清熱)」方向の生薬を検討する方が優先される場合があります。
- 妊娠中・授乳中、出血傾向・心血管系疾患のある方は、使用前に医師・漢方専門医と相談してください。
- 他の強壮剤(例:栄養ドリンク、ハーブ系サプリメント)や血圧降下薬・利尿薬・免疫系薬等との併用においては注意が必要です。
- 生薬は体質・症状・併用薬によって効果・反応が異なります。あくまで「補助」「支える」役割として用い、万能薬ではないという理解を持ってください。
一言メモ
黄耆は「外からのストレスにも負けない体づくり」を支える生薬です。
気を補いながら、表(肌・粘膜・汗腺)という“体の防波堤”を強めることで、日々の疲れ・汗・むくみ・風邪ひきやすさといったサインに寄り添います。
その人らしい日常を支えるための“バリア力”を育てる一助となる、優れた生薬です。