( 診療案内 )

甘草(かんぞう)

全体を調和させ、炎症を鎮める“まとめ役”の生薬

概要

甘草(かんぞう/学名:Glycyrrhiza uralensis Fisch.)は、漢方処方にもっとも多く登場する生薬の一つです。
味が甘く、他の生薬との相性が良いため、「処方のまとめ役」「調和の薬」とも呼ばれています。
体を穏やかに温めながら、気を補い、痛みを和らげ、炎症を鎮める作用が期待され、疲労・咽喉痛・胃の不快感・筋肉のけいれんなど多様な場面で処方に含まれます。

基本情報

項目内容
生薬名甘草(かんぞう)
学名Glycyrrhiza uralensis Fisch.
使用部位根およびストロン(根茎・匍匐枝)
性味平・甘(=性質は平/薬味は甘い)
帰経脾・胃・肺・心(=消化/呼吸/心身に働きかける)
分類補気薬(ほきやく)

主な働き

気を補い、体力を整える

甘草には軽めの補気作用があり、脾・胃の働きを助けることで、疲れやすい・食欲がない・だるさが続くといった軽度の気虚傾向に用いられます。
また、他の補気薬(例:人参・白朮など)と組み合わせることで、体をやさしく整える“助け役”として役立ちます。

他の生薬を調和させ、作用をまろやかにする

甘草の最大の特徴は、他の生薬の刺激を和らげ、処方全体の働きを調整する力にあります。漢方では「導薬」や「調和剤」として、処方の7〜8割以上に含まれているという資料もあります。
このため、処方全体のバランスを高め、「強すぎる生薬の副作用を抑える」「味を整える」役割も担います。

炎症や痛みを抑える

甘草には抗炎症・鎮痛・軟筋(筋肉の緊張をやわらげる)作用が報告されており、咽喉痛・胃痛・口内炎・皮膚炎・筋肉のけいれんなどに用いられることがあります。例えば、抑制PNF-κB経路による炎症調整作用などの研究もあります。
ただし、重篤な炎症・疾患などに対しては補助的役割であることを理解しておくことが重要です。

こむら返りや筋けいれんを和らげる

例えば、処方の一つである「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」では、甘草+芍薬の組み合わせで筋肉のけいれん・こむら返り・月経時のこむら返りなどに即効性が期待されています。

東洋医学的な視点

東洋医学では、甘草は「調和」「緩和」の生薬として位置づけられています。
特に、脾(消化吸収の働き)を補いながら、体内のエネルギー(気)を安定させ、他の生薬との協力関係を整えることで、過不足のない働きを引き出します。
また、心・肺の経絡にも働きかけるため、咽喉の痛み・咳・ストレス性の胸部不快感など、上半身のトラブルにも幅広く用いられます。

含まれる代表的な漢方処方

注意点

  • 甘草の長期間・大量使用により、偽アルドステロン症(むくみ・高血圧・低カリウム血症など)を生じる事例があります。
  • 高血圧・腎疾患・心疾患などの既往がある方、妊娠中・授乳中の方、他の強壮剤・ステロイド系薬剤・利尿薬等を併用の方は、使用前に必ず医師・漢方専門医への相談が必要です。
  • 甘草は「優しい生薬」と思われがちですが、作用が広範囲に及ぶため、体質・症状・併用薬・服用期間を見極めて使用することが大切です。
  • 甘草はあくまで“体の調整を助ける”補助的な生薬であり、単独で全ての症状をカバーするものではありません。

一言メモ

甘草は「調和とやさしさの生薬」です。
強すぎる作用をなだめ、弱っている部分を支える、その穏やかな働きによって、処方全体をまとめ上げ、体のバランスを整える役割を果たします。
あなたの“その人らしさ”を支える大切なパートナーとなり得る生薬です。