( 診療案内 )

再生不良性貧血

免疫の異常によって、血液の元となる細胞が破壊される病気

「再生不良性貧血(さいせいふりょうせいひんけつ)」とは、骨髄の中で血液をつくる力が弱まる病気です。
その結果、赤血球・白血球・血小板がすべて減ってしまい、貧血・感染・出血しやすさといった症状が現れます。

この記事では、

  • 病気のしくみ
  • 診断の考え方・基準
  • 受診の目安と検査の流れ
  • 主な治療法
  • いろはなクリニックでできること

についてわかりやすくご説明します。

疾患のしくみと症状

骨髄で何が起きているのか?

再生不良性貧血の多くは、免疫の誤作動(自己免疫反応)によって起こります。
本来、体を守るTリンパ球が、自分の造血幹細胞(血液のもとになる細胞)を攻撃
してしまうことで、造血幹細胞が減少し、結果、血液の成分が減少することで、様々な症状が出現します。

PNH型血球との関係

約6割の方で、PNH型血球(GPIアンカーという構造が欠けた血球)が見つかります。
これは免疫の攻撃を受けにくい血球で、やはり「免疫性の骨髄抑制が関係している」証拠になります。
PNH型が多い方は、免疫抑制療法に反応しやすい傾向があります。

遺伝子変異

血液細胞を詳しく調べると、PIG-A、BCOR、DNMT3A、ASXL1などの遺伝子変化が見つかることがあります。
これは「がんのような変異」ではなく、弱った骨髄で生き残ったクローン(仲間)が増えた結果であることが多いです。中には、将来的に骨髄異形成症候群(MDS)に移行しやすいタイプもあるため、経過観察が大切です。

血球減少に伴う症状

血液の種類減少による主な症状
赤血球息切れ・めまい・倦怠感
白血球(好中球)発熱・感染にかかりやすい
血小板あざ・出血しやすい・鼻血・月経過多

血球減少は、ゆっくり進行する方もいれば、急に悪化する方もいます。

診断と重症度分類

診断基準(平成28年度改訂)

血液検査で、次のうち2項目以上が当てはまり、かつ骨髄が低形成(細胞が少ない)ことを確認した場合、再生不良性貧血と診断します。

項目診断の目安値
ヘモグロビン10.0 g/dL 未満
好中球1,500 /μL 未満
血小板100,000 /μL 未満

※骨髄に芽球(白血病細胞)の増加や異形成がないことを確認します。
※「血小板減少」を含む2系統の減少が特徴的です。

重症度分類(平成29年度修正)

血球の減少の程度に応じて、Stage 1〜5に分類されます。
治療方針や医療費助成(指定難病)の判断にも用いられます。

ステージ重症度の目安好中球 (/μL)網赤血球 (/μL)血小板 (/μL)
1ごく軽症≥1,200≥60,000≥70,000
2a軽症1,200〜60060,000〜40,00070,000〜50,000
2b中等症(輸血要)600〜50040,000〜20,00050,000〜20,000
3重症<500<20,000<20,000
4最重症<200<20,000<20,000
5極めて重症<100<10,000<10,000

(出典:再生不良性貧血診療の参照ガイド 令和4年度改訂版)

受診の目安・検査の流れ

こんなときは受診を

  • 健診で「血小板が低い」「白血球が少ない」「貧血がある」と言われた
  • あざが増えた、鼻血が止まりにくい
  • 疲れやすい、息切れがする
  • 微熱やのどの痛みが長引く

検査の流れ

  1. 血液検査:血球の数や形をチェックします。
  2. 骨髄検査:骨の中で血液をつくる細胞の量や形を調べます。
  3. PNH検査(フローサイトメトリー):免疫性のタイプかどうかを確認。
  4. 画像検査:MRIで骨髄の状態を評価します
  5. 遺伝子解析:※実施できる施設は限られます

上記の検査を組合わせ、他の造血器疾患がないことを確認し(除外診断)、確定診断となります。

治療

軽症〜中等症の場合(ステージ1〜2a)

  • シクロスポリンという免疫調整薬を内服します。
  • 血球数の増加があれば継続し、治療効果のピークを確認した後、数か月ごとにゆっくりと減量していきます。
  • 反応がない場合は、他の治療(トロンボポエチン作動薬など)を検討します。

中等症〜重症の場合(ステージ2b〜)

  • ATG(抗胸腺細胞グロブリン)+シクロスポリン+トロンボポエチン作動薬の併用療法が標準治療です。
  • 若くてHLAが一致する兄弟姉妹がいる場合は、造血幹細胞移植が選択されることもあります。
  • 感染や鉄過剰症などへの支持療法も重要です。

※発症から早期に適切な治療を開始するほど、回復の可能性が高くなります。

新しい治療の進歩

  • 2023年以降、エルトロンボパグ(レボレード®)とロミプロスチム(ロミプレート®)が早期から使用可能になりました。
  • 移植技術も進歩しており、HLA半合致移植や臍帯血移植の成果も報告されています。

予後(病気の経過と見通し)

かつては、重症の再生不良性貧血では約半数の方が発症から半年以内に亡くなるとされていました。
しかし近年では、抗生物質・G-CSF(白血球を増やす薬)・血小板輸血などの支持療法が進歩し、さらに免疫抑制療法や骨髄移植を発症早期から行えるようになったことで、治療成績は大きく向上しています。

現在では、

  • 70%の方が輸血不要な状態まで回復し、
  • 90%以上の方が長期生存を得られるようになっています。

一方で、来院時から好中球がほとんどゼロに近く、G-CSFを投与しても増えない場合は、依然として予後が厳しいことが知られています。
また、免疫抑制療法によって一度改善しても、再生不良性貧血の再発や、骨髄異形成症候群(MDS)・発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)への移行がみられることがあります。
このような“再発や移行といったトラブル”を経験することなく、長期に安定して過ごせる方の割合は全体の約50%弱と報告されています。

さらに、これまで免疫抑制療法でも改善せず、定期的な赤血球・血小板輸血が必要だった重症例に対しても、近年ではトロンボポエチン作動薬が登場し、およそ半数の方で血球の改善が得られるようになりました。

ただし、赤血球輸血を長期間繰り返すと、体内に鉄がたまり(鉄過剰症)、糖尿病・心不全・肝障害などが現れることがあるため、鉄を減らす治療(鉄キレーション療法)が必要になる場合もあります。

免疫抑制療法で改善した方の中でも、長い経過のなかで

  • 約3%がMDS(骨髄異形成症候群)に、
  • その一部が急性骨髄性白血病に、
  • 5%がPNHに移行する
    ことが報告されています。

このように、再生不良性貧血は治療によって長期生存が期待できる時代になりましたが、再発や別の病気への移行を見逃さないための定期的なフォローアップが、今後も欠かせません。

いろはなクリニックでできること

  1. 初期スクリーニングと早期発見
    • 血液検査の結果から再生不良性貧血の可能性を診断します
  2. 専門医療機関との連携
    • 確定診断には骨髄検査など、専門的な検査が必要であるため、高度医療機関をご紹介します
  3. 初期治療後のフォローアップ
    • 症状が安定した患者さんの外来診療を担当します
    • 免疫抑制剤(シクロスポリン)治療中の治療効果や副作用をチェックします
    • トロンボポエチン作動薬(レボレード®、ロミプレート®)の投与も可能です
    • 支持療法(感染予防など)も併せて行います
    • 難病医療費助成の申請支援をします

まとめ

再生不良性貧血は、免疫の異常により骨髄が血液をつくれなくなる病気です。
早い段階で診断、適切な治療介入できれば、血球の回復が期待できるため、早期診断が大切です。
健康診断などで血球数の異常を指摘された場合は、当院へご相談ください。