( 診療案内 )

RSウイルス感染症

赤ちゃん・乳幼児の重症化リスクがある感染症

皆さんは「RSウイルス」という名前を、育児をする中で一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

  • 保育園で流行っている
  • ゼーゼーする風邪
  • 入院する赤ちゃんもいるらしい

といった話を聞くと、不安になりますよね。

RSウイルス感染症は、ほとんどの子どもが2歳までに一度は感染する「とても身近なウイルス」です。
一方で、特に生後数か月の赤ちゃんでは重症化しやすい
ため、注意して見守る必要があります。

この記事では、乳幼児のRSウイルス感染症について、わかりやすく解説していきます。

RSウイルス(RSV)とは?

RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)とは、呼吸器に感染するウイルスのひとつです。
従来は晩秋から初冬にかけて流行することが多かったのですが、近年は春から初夏にかけて増加し始め、夏にピークを迎えるパターンが定着しています。2023年には6月末頃にピークを迎えるなど、例年より早くピークが来る傾向も見られたため、流行時期に関しては毎年の最新情報に注意が必要です。

特徴

  • ほぼすべての子どもが2歳までに感染
  • 大人は軽い風邪で済むことが多い
  • 乳幼児は重症化しやすい
  • 再感染しやすい(免疫が長く続かない)

特に0〜2歳の子は、気道が細く、細気管支炎を合併すると重症化しやすいため注意が必要です。

小児のRSウイルス感染症の症状

初期症状は「ただの風邪」とほとんど同じ

  • 鼻水
  • 発熱
  • 食欲低下

ここまでは、普通の風邪との見分けがつきません。

しかし数日で呼吸が悪化することがある

RSウイルスが特に問題になるのは、「細気管支炎(さいきかんしえん)」を合併しやすいことです。

RSウイルス細気管支炎とは?

細気管支とは、肺の中のもっとも細い空気の通り道のこと。
そこに炎症が起こると、

  • むくみで空気が通りにくくなる
  • 粘り気のある分泌物が詰まりやすい
  • 息を吸ったり吐いたりが苦しくなる

といった状態になります。

赤ちゃんは“細いストロー”のような小さな気道しか持っていないため、少しの炎症でも呼吸状態が悪化すること特徴です。

細気管支炎の症状

  • ゼーゼー・ヒューヒュー(喘鳴)
  • 呼吸が早くなる
  • 肋骨の間やみぞおちがペコペコへこむ(陥没呼吸)
  • 顔色が悪い
  • 授乳・ミルクを嫌がる

このような症状が見られたら、入院治療の適応となる可能性があるため、早めの受診が大切です。

無呼吸発作

無呼吸発作とは、一時的に呼吸が止まってしまう状態です。

生後3か月未満の赤ちゃん、早産児では特にリスクが高く、RSウイルス感染症で入院した赤ちゃんの中には1〜20%程度で無呼吸を経験するという報告もあります。

  • しばらく息をしていないように見える
  • 顔色が青白い
  • 急にぐったりする

こうした症状がある場合はすぐ受診、場合によっては救急要請も必要です。

RSウイルスの治療

RSウイルスには、特効薬や抗ウイルス薬はありません。

治療の中心は、

  • 呼吸状態の観察
  • 水分補給
  • 呼吸が苦しければ酸素投与
  • 授乳できない場合は点滴

といった「症状を和らげる対症療法」が中心となります。
呼吸の状態が悪い場合などの重症例は入院管理が必要になります。

家庭での注意点

次のような症状が見られる場合は、医療機関への受診が必要です。

受診の目安

  • 呼吸が早い、苦しそう
  • ゼーゼーしている
  • ミルク・水分が半分以下になった
  • 機嫌が悪くぐったりする
  • 顔色が悪い
  • 発熱が続く

救急外来などへすぐ受診

  • 無呼吸
  • 顔が青っぽい
  • 意識がぼんやりしている
  • 呼吸が強く苦しそう(陥没呼吸)

RSウイルスの予防

RSウイルスは、残念ながら完全な予防が難しいウイルスです。
しかし、次のポイントで感染リスクを減らすことができます。

  • 手洗い
  • タオルの共有を避ける
  • きょうだいが保育園から帰ったら手洗い・うがい
  • おもちゃ・ドアノブの消毒

特にきょうだいがいる家庭では、
上の子 → 下の子への感染が非常に多いことが分かっています。

最新の予防法:妊婦ワクチンと抗体製剤

ここまでが「RSウイルスにかかった時」の話ですが、
ここからは「そもそもかからないようにする」ための最新の予防法について説明します。

妊婦RSウイルスワクチン(2026年定期接種開始予定)

2026年4月から、妊婦さんが受けるRSウイルスワクチンが定期接種としてスタートする予定です。

妊婦さんがワクチンを接種すると、

  • 妊婦さんの体で抗体が作られ
  • その抗体が胎盤を通って赤ちゃんに移行します

この仕組みを「母子免疫」といいます。

海外の研究(MATISSE試験)では

  • 生後3か月までの重症RS感染が70〜80%減少
  • 生後6か月まででも、重症化・入院が有意に減少

妊婦ワクチンの導入は、生まれた瞬間から赤ちゃんをRSウイルスから守る新しい方法です。

※RSウイルスワクチンに関する記事はこちら

乳児向け抗体製剤(ニルセビマブ)

もう一つの最新予防が、生後の赤ちゃんに直接「完成した抗体」を投与する方法です。

ニルセビマブ(商品名:ベイフォータス)は、乳児に1回注射するだけで、約5か月間、RSウイルスから守る効果があります。対象は「重篤な RS ウイルス感染症の発症リスクを有する新生児・乳児」となっています。

まとめ

RSウイルスは入院が必要となる場合もありますが、適切な治療を行うことで、しっかりつ回復が期待できる病態です。大切なことは、「重篤な症状を見逃さないこと」です。お子さんの様子で心配なことがある場合は、いつでもご相談ください。