( 診療案内 )

骨髄異形成症候群(MDS)

血液の成分が少なくなる病気

骨髄異形成症候群(MDS)」という病名を初めて聞いた方も多いのではないでしょうか?
MDSは、骨髄という“血液をつくる工場”に異常が起き、赤血球・白血球・血小板などの血液細胞がうまくつくれなくなる病気です。多くの場合、高齢の方に見られ、貧血や感染症、出血しやすいといった症状があらわれます。
健康診断の異常で発見される、無症状の患者さんも多いのですが、実は「血液のがん」の一種です。
このページでは、MDSとはどんな病気なのか、どんな検査や治療があるのか、そしてどう向き合っていけばよいのかを、わかりやすく説明していきます。

MDSとは?

骨髄異形成症候群(MDS)は、骨髄の働きがうまくいかなくなり、血液をつくる力が弱くなる病気です。特に高齢の方に多く、健康診断や貧血の症状から見つかることがあります。

正常な骨髄では、赤血球・白血球・血小板などの血液細胞がバランスよくつくられています。しかしMDSになると、骨髄は一見元気そうに見えるのに、うまく血液をつくれず「無効造血」という状態になります。その結果、

  • 貧血(赤血球の不足)
  • 感染に弱くなる(白血球の減少)
  • 出血しやすくなる(血小板の減少)

といった症状が出てきます。

MDSの原因は?

MDSのはっきりとした原因は、実はまだすべてが解明されているわけではありません。しかし、いくつかの要因が関係していると考えられています。

  • 加齢
    MDSは高齢になるほど発症しやすく、平均発症年齢は約76歳とされています。年齢とともに造血幹細胞に異常が蓄積し、MDSの原因になることがあります。
  • 過去の抗がん剤治療や放射線治療
    他のがんの治療として使われた化学療法(特にアルキル化剤)や放射線療法が、数年後にMDSを引き起こすことがあります。これを「治療関連MDS(t-MDS)」と呼びます。
  • 環境要因
    ベンゼンなどの有害な化学物質への長期暴露や、重金属(鉛・ヒ素など)、長期間の喫煙、農薬の使用歴などがMDSのリスクと関連する可能性があります。
  • 放射線被ばく
    過去の研究では、原爆被爆者の方々にMDSが多く見られることがわかっており、高線量の被ばくもリスク因子のひとつと考えられています。
  • 遺伝子の変異
    最近の研究で、MDSの患者さんの骨髄では特定の遺伝子に異常があることが分かってきました。ただし、これらの遺伝子異常がなぜ発生するのか、どのように病気を引き起こすのかは、すべて解明されているわけではありません。

MDSの症状は?

MDSの症状は人によって異なりますが、代表的なものには以下があります。

  • だるさ・息切れ・めまい(貧血による)
  • 風邪をひきやすい、治りにくい(免疫力の低下)
  • 歯ぐきからの出血、あざができやすい(血小板の減少)

一方で、健康診断の血液検査で偶然見つかることもあり、症状がまったくない方もいます

MDSの診断と分類

血液検査と骨髄検査で診断します

MDSの診断には、血液検査だけでなく、骨髄の検査が必要です。骨髄は全身の骨の中にある「血液の工場」で、骨髄中の細胞の形に異常がないかを詳しく調べます。また、染色体検査や遺伝子検査も行い、病気のタイプを正確に把握します。
※いろはなクリニックでは骨髄検査を実施しておりません。検査が必要な患者さんは、連携医療機関へご紹介させて頂きます。

治療の考え方

MDSは患者さんごとに進行のスピードや重症度が異なるため、治療の内容もそれぞれに合わせて決められます

「予後スコア」でリスク判定

治療方針を決めるために、「IPSS-R(国際予後予測スコア)」というスコアを使って、病気のリスク(進行のしやすさや白血病への移行の可能性)を5段階に分類します。

  • Very Low(非常に低いリスク)
  • Low(低リスク)
  • Intermediate(中間リスク)
  • High(高リスク)
  • Very High(非常に高いリスク)

このリスクに応じて、治療の選択肢が変わってきます。

日本血液学会造血器腫瘍ガイドライン第3.1版より

リスク別の治療法

低リスクの方(非常に低リスク~中間リスク)

MDSの進行はゆっくりで、貧血や感染対策などの生活の質を守る治療が中心です。

主な治療法

  • 貧血への対応:必要に応じて輸血エリスロポエチンルスパテルセプトを使用します
  • 鉄がたまりすぎた場合:鉄キレート療法で体内の鉄を減らします
  • 薬による治療
    • 5q-症候群の方 → レナリドミド
    • マルチビタミン療法
    • 免疫抑制剤

高リスクの方(中間リスク~非常に高リスク)

病気が進行しやすく、白血病への移行の可能性が高いため、積極的な治療が必要です。

主な治療法

  • アザシチジン(ビダーザ):病気の進行を遅らせ、生存期間を延ばす効果が期待されます
  • 同種造血幹細胞移植:唯一の根治療法。ただし、年齢や体力、ドナーの有無によって適応が限られます

高リスクMDSは入院での治療が必要となります。適応となる患者さんは、連携医療機関をご紹介させて頂きます。

よくあるご質問

MDSは治る病気ですか?

現時点で、薬だけでMDSを完全に治すことは困難です。根治を目指す場合は「同種造血幹細胞移植」が必要になります。ただし、すべての方がこの治療を受けられるわけではありません。

一方で、ゆっくり進行するタイプのMDSでは、治療をしなくても長期間安定して過ごせる方もいます

MDSと白血病の違いは?

MDSも白血病も「血液のがん」に含まれますが、MDSは“がんの手前の状態”ともいえる病気です。ただし、時間経過により白血病に進展する可能性が高いため、早期の診断と適切な治療が大切です。

まとめ

MDSは、血液をつくる働きが弱くなる病気で、進行のスピードや重症度は人によって異なります。
治療は一律ではなく、「今の体の状態」や「予後の見通し」に合わせて、輸血やお薬、あるいは造血幹細胞移植などの選択肢を組み合わせながら進めていきます。また、すべての方がすぐに治療を必要とするわけではありません。大切なのは、リスク分類を含めた診断と、治療方針の決定です。

いろはなクリニックでは、血液内科専門医の立場から、患者さん毎にわかりやすく丁寧にご説明し、最適な治療方針をご提案しています。連携医療機関と綿密に連携を行いながら、安心して治療を受けられる体制づくりを行っています。

「健康診断で血液の成分が少ないと言われた」
「最近貧血の症状がひどくなっている」
「ぶつけていないのにあざが出来ている」

そんな時は、どうぞお気軽にご相談ください。