「布団に入ってもなかなか寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」「朝早く目が覚めてしまい、もう眠れない」
こうした経験、皆さんにもあるのではないでしょうか。
このような状態が続き、日中の生活に支障をきたすと「不眠症」と診断されます。実は、不眠症はどの年代でも見られますが、年齢とともに増え、特に高齢の女性に多いと言われています。
このページでは不眠症の診断や治療に関して、わかりやすく解説していきます。
不眠症とは?
不眠症は、以下のような状態が続く場合に診断されます。
- 布団に入っても眠れない(入眠困難)
- 夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)
- 朝早く目が覚めてしまい、その後眠れない(早朝覚醒)
- 十分な睡眠環境(静かで暗い部屋など)が整っているにもかかわらず、睡眠に満足できない
- その結果、日中の活動に問題が出てくる
これらの状態が「週3回以上」「3カ月以上」続いていると、医学的に「不眠症」と判断されます
(※アメリカ精神医学会の診断基準=DSM-5より)。
不眠のタイプ
不眠症は、大きく3つのタイプに分かれます。
- 入眠困難:布団に入っても、30分以上眠れない
- 中途覚醒:夜中に目が覚めてしまい、再び眠るのに時間がかかる
- 早朝覚醒:朝、希望する時刻より30分以上早く目が覚めてしまう
不眠が生活に与える影響
「寝不足だけでしょ?」と思う方もいるかもしれませんが、実は不眠が続くことで以下のような症状が現れることがあります。
- 日中の眠気やだるさ
- 集中力や記憶力の低下
- 気分の落ち込みやイライラ
- 仕事や家事の効率低下
- 交通事故やケガのリスク増加
睡眠は、心と体の健康に欠かせない“再生の時間”なのです。
不眠の背景にある「本当の原因」とは?
不眠は、単なる睡眠の問題だけでなく、体や心の不調のサインであることもあります。たとえば…
- うつ病や不安障害などの心の病気
- いびきや無呼吸が原因の睡眠障害
- 足のムズムズ感や頻尿による中途覚醒
- 甲状腺の異常や慢性的な痛み
- 一部の薬やカフェイン・アルコールの影響
不眠が「一つの症状」として他の病気と関係しているケースは少なくありません。ですので、安易に市販の睡眠薬に頼る前に、一度医師の診察を受けていただくことをおすすめします。
睡眠時間へのこだわりは逆効果
「健康のためには毎日7〜8時間は眠らなきゃいけない」と言われますが、実はこの「○時間寝なければ」という思い込みやこだわりは、かえって眠れなくなる原因になることがあります。
特に不眠に悩む方の中には、
- 今日は6時間しか寝られなかった…明日が不安
- もっと早く寝なきゃ…
こうした意識が強くなるあまり、眠ること自体がプレッシャーになってしまっている方も少なくありません。
実際には、必要な睡眠時間には個人差がありますし、「質のよい睡眠」がとれていれば、睡眠時間が多少短くても問題ない場合もあります。睡眠は目的ではなく、日中に活動するための手段である、と考え方を変えることも大切です。
治療の基本は「生活習慣の見直し」から
不眠の治療は、「薬を飲む」だけではありません。まずは以下のような生活の見直しが大切です。
睡眠の質を高めるポイント(睡眠衛生指導)
- 就寝6時間前からはカフェイン・喫煙・お酒を控える
- 寝る直前のスマホ・テレビを避ける
- 眠くなってから布団に入る
- 就寝・起床時間を一定にする
- 寝室は静かで暗く、適温に保つ
- 適度な運動を日中に取り入れる(夕方以降は避けましょう)
これらを意識することで、薬に頼らず睡眠が改善する方も多くいらっしゃいます。
それでも眠れない場合には…
生活習慣の改善でも不眠が続く場合には、以下のようなお薬を使うことを検討します。
- 自然な眠りを促すお薬(例:メラトニン受容体作動薬)
- 覚醒を抑えるお薬(例:オレキシン受容体拮抗薬)
- 不安や緊張を和らげるお薬(例:ベンゾジアゼピン系・非ベンゾ系)
睡眠薬の種類
ベンゾジアゼピン系睡眠薬
(例:ハルシオン、レンドルミン、サイレースなど)
- 眠気を引き起こす脳の「GABA(ギャバ)」という神経伝達物質に働きかけ、睡眠を促します。
- 長年使われてきた薬で、即効性があり、よく眠れると感じる方が多い一方、
- 依存性(やめづらくなる)
- 耐性(効きにくくなる)
- ふらつきや転倒のリスク(特に高齢者)
- 記憶力や認知機能への影響
などの副作用が指摘されています。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
(例:マイスリー、アモバン、ルネスタなど)
- 作用機序はベンゾジアゼピン系と似ていますが、構造が異なり、「Z薬」とも呼ばれます。
- ベンゾジアゼピン系よりは依存性が少ないとされていましたが、近年では
- 睡眠中の異常行動(寝ぼけて出歩く・記憶がないなど)
- 翌朝の眠気や集中力の低下
- ふらつき・転倒
などの副作用が報告されており、慎重に使用すべき薬と位置づけられつつあります。
メラトニン受容体作動薬(例:ロゼレム)
- 体内時計のリズムを整えるホルモン「メラトニン」と似た働きをする薬。
- 自然な眠りをサポートする作用があり、依存や翌朝の眠気のリスクが少ない。
- 即効性はやや乏しく、「じっくり使って徐々に改善」する薬です。
- 高齢者にも比較的安全とされています。
オレキシン受容体拮抗薬(例:ベルソムラ、デエビゴ)
- 覚醒を維持する「オレキシン」という物質の働きをブロックすることで、自然な眠気を促す。
- 寝つきの悪さ・夜中の目覚めの両方に効果があり、近年注目されている薬です。
- 副作用として、まれに「翌朝の眠気」や「ふらつき」があります。
ベンゾ系・非ベンゾ系は“第一選択”ではなくなっています
以前は「眠れないならよく効く睡眠薬を」という考え方もありましたが、現在は大きく変わってきています。
- 睡眠薬を長期間使うと、やめたくてもやめられない依存状態になる方が少なくありません。
- また、高齢の方では、転倒による骨折や認知機能の悪化など、薬のリスクが大きいこともわかってきました。
- そのため現在では、ベンゾ系・非ベンゾ系の薬をなるべく使わず、行動療法などの非薬物療法を優先する流れになっています。
- また、薬物を使用する場合も、新しい系統の薬剤は優先する傾向になっています。
特に高齢者には、これらの薬は「使わない」または「最小限にとどめる」ことが推奨されています。
うつ病との関係にも要注意
不眠の裏に「うつ病」が隠れていることがあります。
次のような症状がある場合は、ぜひ相談してください。
- 最近、気分が落ち込みやすい
- 何をしても楽しめない・やる気が出ない
- 食欲がない、または食べ過ぎてしまう
- 自分を責める気持ちが強くなっている
不眠とうつ病は、お互いに関係し合っています。うつ病の治療を進めることで、睡眠も自然と改善していくことがあります。
まとめ
「眠れないのは年のせい」「そのうち眠れるようになるだろう」と放っておくと、日中の生活や健康にも影響を及ぼしかねません。
いろはなクリニックでは、不眠に悩む方お一人おひとりの背景や生活に合わせて、丁寧に対応させていただきます。「薬はなるべく使いたくない」「なんとなく眠れない理由がわからない」そんな方も、ぜひお気軽にご相談ください。