夜になるとお腹の調子が気になって眠れない、緊張するとすぐに下痢をしてしまう、便秘と下痢を繰り返して落ち着かない――。そんな症状に悩む方が少なくありません。
過敏性腸症候群(IBS)は、検査をしても腸に目立った異常が見つからないのに、腹痛や便通異常が続く病気です。ストレスや生活習慣が深く関わるため、治療には体質や心身のバランスを考える視点が大切です。
この記事では、IBSを西洋医学と漢方の両面から解説し、当院で用いる漢方薬や生活の工夫について紹介します。
西洋医学から見た過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS)は、大腸に明らかな炎症や腫瘍などの異常がないにもかかわらず、腹痛や便通異常(下痢・便秘・交替型)が続く疾患です。ストレスや自律神経の乱れ、腸内環境の変化が関与するとされます。
診断は「慢性的な腹痛や便通異常が3か月以上続く」ことが目安で、大腸カメラなどで器質的疾患が否定されたうえで行われます。治療は食事療法、整腸剤、便通異常に対する薬物治療、心理的アプローチなどが行われます。
漢方から見た過敏性腸症候群
漢方では、IBSは「脾胃(消化機能)」と「肝(自律神経・情動)」の失調によって起こると考えます。
- 肝気鬱結(かんきうっけつ):ストレスで気の巡りが滞り、腹痛や下痢を繰り返す
- 脾虚(ひきょ):胃腸の力が弱く、軟便・倦怠感が続く
- 寒熱錯雑(かんねつさくざつ):お腹が冷えると下痢し、緊張すると便秘するなど、症状が不安定
当院でよく用いる漢方薬
- 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
下痢と便秘を繰り返し、腹部膨満や吐き気を伴うタイプに適応します。腸の炎症や水分停滞を調整します。
⚠️ 長期連用で胃腸障害を悪化させる可能性があるため注意。 - 六君子湯(りっくんしとう)
胃腸が弱く、食欲不振や軟便が続くタイプに用います。消化吸収を助け、体力を回復させます。
⚠️ 急性の激しい腹痛や下痢には不向き。 - 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
腹部の張りやけいれん性の痛みを伴う下痢に有効です。腸の過敏性を和らげる処方です。
⚠️ 急性細菌性腸炎や器質的疾患には効果が期待できません。 - 加味逍遙散(かみしょうようさん)
ストレスで便通異常が悪化する方に。情緒不安定、不眠やイライラを伴うときに有効です。
⚠️ 長期使用では肝機能障害の可能性があるため、定期的なチェックが必要です。
養生の工夫
- 規則正しい生活リズムを整える(寝不足・過労は症状を悪化させる)
- 食事は刺激物(アルコール、香辛料、カフェイン)を控え、消化にやさしいものを中心にする
- 適度な運動やストレッチで「気」の巡りを良くする
- ストレスコントロールが重要であり、呼吸法やリラクゼーションも有効
まとめ
過敏性腸症候群は、器質的異常がないにもかかわらず長く症状が続き、生活の質を大きく下げる疾患です。西洋医学の治療に加え、漢方は「腸の働きを整える」「自律神経の乱れを調える」ことで改善をサポートします。
過敏性腸症候群でお困りの方は、当院へご相談ください。