
毎日お通じがなくてお腹が張る、便が硬くて出にくい、出てもすっきりしない…
便秘症は年齢や性別を問わず多くの方が悩む症状です。生活習慣や加齢、ストレス、ホルモンバランスの変化、服薬の影響など、原因はさまざまです。西洋医学では下剤や整腸薬が中心となりますが、長期使用による耐性や腹痛の副作用が課題となることもあります。漢方では、便秘を「気・血・水」の巡りの乱れとして捉え、原因と体質に応じて整えることを目指します。
西洋医学から見た便秘症
慢性便秘症は、「排便回数が少ない」「排便に強い努力を要する」「硬便」「残便感」などが3か月以上持続する状態を指します。
主な分類は以下の通りです。
- 弛緩性便秘:腸の蠕動が低下して便が停滞(高齢者や運動不足の方に多い)
- 直腸性便秘:便意を我慢する習慣などで直腸の感受性が低下
- けいれん性便秘:ストレスや自律神経の乱れで腸が過剰に緊張し、便が出にくい
治療は下剤(浸透圧性・刺激性・新規機序薬)、食事・運動療法、心理的アプローチなどが行われます。
漢方から見た便秘症
漢方では便秘を「実証(排出障害)」か「虚証(エネルギー不足)」かで大きく分け、さらに以下のタイプに分類します。
| タイプ | 主な特徴 | 代表的な証 | 主な処方例 |
|---|---|---|---|
| 熱秘(ねっぴ) | 便が硬く乾く、顔が赤い、口渇、のぼせ | 体に熱がこもる | 防風通聖散、大黄甘草湯 |
| 気虚秘(ききょひ) | 排便時に力が入らない、疲れやすい | エネルギー不足で腸を動かせない | 補中益気湯 |
| 血虚秘(けっきょひ) | 高齢・産後・乾燥肌、便が硬く少ない | 血の不足で腸が潤わない | 当帰芍薬散、潤腸湯 |
| 気滞秘(きたいひ) | ストレスで腹が張る、便が出にくい | 気の巡りの停滞 | 加味逍遙散、半夏厚朴湯 |
| 寒秘(かんぴ) | 冷え、腹部膨満、腸の動き低下 | 冷えで腸が働かない | 桂枝加芍薬湯、大建中湯 |
当院でよく用いる漢方薬
- 防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
熱がこもって便が硬く出にくいタイプに。体の「余分な熱」と老廃物を排出します。
⚠️ 体力の落ちた方、胃腸虚弱の方では下痢や脱力を起こすことがあります。 - 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
排便に力が入らない、疲れやすい方に。気を補って腸の働きを回復させます。
⚠️ 多汗傾向の方では悪化することがあります。 - 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
お腹が張って痛みを伴う便秘に。腸のけいれんを和らげ、自然な排便を促します。
⚠️ 腹痛を伴わない便秘には不向きです。 - 加味逍遙散(かみしょうようさん)
ストレスや自律神経の乱れが関与するタイプに。気の巡りを整え、イライラや月経異常にも対応します。
⚠️ 長期使用では肝機能障害に注意。 - 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
血虚や冷えを伴う女性に。体を潤しながら腸の動きを整えます。
⚠️ むくみや下痢傾向がある方は注意。 - 大建中湯(だいけんちゅうとう)
冷えと腹部膨満を伴う便秘に。腸管を温め、蠕動を促して排便を助けます。
⚠️ 急性腹症や炎症性腸疾患では使用を避けます。
養生の工夫
- 規則正しい生活と排便リズムを整える(朝食後の排便習慣)
- 水分をしっかり摂る(1.5〜2L/日)
- 食物繊維を多く含む食品(野菜、海藻、豆類、果物)を意識的に摂取
- 腹部を冷やさず、軽い運動で腸の動きを促す
- ストレスをためず、リラックスする時間を持つ
まとめ
便秘症は一見単純なようで、実際には体質・生活習慣・精神状態など多くの要素が関係しています。西洋医学では便を出す治療が中心ですが、漢方では「なぜ出にくいのか」を体質から見極め、腸の働きを整えていきます。
慢性的な便秘でお困りの方は、当院へご相談ください。